みかん畑の一年
暖かい日差しも冷たい風に遮られるような冬の間に、夏の草はすっかり枯れてなくなり、いつの間にかハコベ、オオイヌノフグリ、ナズナなどの冬草ばかりになっています。カメムシやハナバチがみかんと葉の間で身動きせず春を待っています。地面の生き物も隠れています。3月頃、気温が上がりだすと冬の草は勢いを増して伸び始めます。カラスノエンドウや、ホトケノザは肥えた畑では大きくなります。ナナホシテントウやアブラムシを見かけるようになります。太陽が暑く感じられ気温が上がりだす5月頃には勢いが弱くなり、夏の草に覆われてしまいます。
イネ科のメヒシバ、エノコログサ。クズやカズラ、いろいろな草が生えています。夏の草は雨が降るとあっという間に成長します。ダンゴムシ、アリ、クモ、ミミズ、バッタ、様々な生き物が動き回ります。梅雨が終わると夏の気温となり、雨は少なくなります。乾いた土では草も勢いをなくして暑そうにしています。盆過ぎには暑さも和らぎ雨が降る日が出てきます。センダングサの花ではミツバチが、ヤブガラシの花はいい香りで、スズメバチが蜜を集めています。草を刈ると、住処を追い出された虫を狙う赤トンボやムクドリが寄ってきます。トンボはどこから来たのか不思議になる数でぶつかることなく飛び回ります。朝晩の涼しさを感じる頃、夏の草は穂をつけたまま衰え始めます。
雨
雨が多いと、糖度も酸度も少なく、さっぱりとした食べやすいみかんになるといいます。みかんは大きくなりやすく、木もみずみずしく元気になります。雨水に菌が溶けて伝わる病気が発生しやすく、ダニは雨に流されて少なくなります。水があると草も伸びやすいのですが、曇天続きで気温が上がらない場合は水があってもそこまで伸びません。
雨が少ない年は、玉は小さく、糖度も酸度も高くて、濃厚なみかんに仕上がるといいます。木は疲れ、あまりに水がないと枯れることもあります。草は勢いをなくします。雨水を潅水で補おうとすると気が遠くなるほどの水が必要になります。
病気と害虫
多くの病気は雨で感染します。そうか病、かいよう病は越冬した葉から新芽に広がります。実についた病斑は凹凸です。これらの病気は増えだすとなかなか収まりません。黒点病は、枯れ枝が感染源で雨が多いと増え、みかんに黒い点がつきます。灰色カビ病は、花弁についたカビがみかんの皮にも痕をつけます。
ハダニ、サビダニ、チャノホコリダニ、アザミウマ、カメムシ、カイガラムシ、ロウムシ、コナジラミ、いろんな虫がみかんの皮に活動痕を残します。ハモグリガ 、アゲハ類は葉を食べ、ゴマダラカミキリは幹を食べます。
鳥のこと
キジが遠くでケーンと鳴いています。ばさばさばさと羽音を立てながら飛び立つところも見かけます。畑の中に巣をつくり、人が近寄っても息を殺して隠れていますが、いよいよとなると逃げ出します。逃げ出した後の巣の中に卵があることも。ひなを見かけたことはありません。
安下庄はカラスが多いです。カラスは、みかんを食べます。肥料を食べます。鶏のひなを連れ去られたこともあります。12月になると木の上側のみかんがなくなっていることがあります。イノシシのようにきれいには食べてくれません。残ったみかんの汁が垂れて下のみかんがべとべとになっています。あまりの多さ、声の大きさに驚きます。
ヒヨドリは、12月頃、みかん畑の中でピーヨピーヨと鳴いています。外側はカラス、内側のはヒヨドリが食べます。ヒヨドリは数が多い年と少ない年があります。ウグイスは、春から夏までホーホケキョと鳴いています。トンビは、年中空を飛んでいます。釣り人がいれば近づいておこぼれを狙っています。
イノシシのこと
周防大島にイノシシはいませんでした。私たちも2015年頃はほとんど問題視していませんでしたが、いつの間にか畑を荒らしみかんを食べるようになり、みかんを守るために島中の畑には金網や電気柵が張り巡らされるようになりました。その巨体から、人力では動かせないほどの石垣の石を平気で持ち上げ崩します。高いところのみかんも、枝をへし折り食べてしまいます。根を掘られたみかんは枯れてしまいます。2020年には3000頭ものイノシシが駆除されたそうです。
鶏のこと
もともとみかん栽培は、摘果といって不必要なみかんを木の負担としないために早めに落とす作業をします。昆虫の活動痕・病気の著しいものなどは、この時点で落としてしまいます。手間のかかる作業ですが、毎年のみかん安定供給、収穫や収穫後の選別の手間を省くためには重要な仕事です。それでも、収穫後に腐敗につながる傷みが出てしまうことがあります。みかんに残された時間ごとに最もおいしく食べていただける方法を考えています。どうしても食べられないものは少量ですが、最後はニワトリに食べてもらうことで、みかんと卵の物々交換に利用しています。